Short Story

ものがたり ~暁に咲く花魔女・セラ~

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朝靄の中に、静かに揺れる花畑があった。

その中心に立つのは、緑の髪と深い青の瞳を持つ若き魔女、セラ

彼女の背後には、大きく鮮やかな黄色の花が咲き乱れている。それは太陽の化身のようであり、見る者に勇気と温もりを与える不思議な力を持っていた。

セラは「暁の花魔女」と呼ばれ、夜明け前になるとどこからともなく現れ、枯れた大地に花を咲かせては、朝日の中に溶けるように消えていった。村人たちはその姿に何度も命を救われたが、彼女の正体を知る者はいなかった。

しかし、セラには過去があった。

かつては王国の宮廷で薬草師として仕えていた少女だった。彼女の調合する薬は評判で、民に広く愛されていた。だが、ある日、王妃が不治の病に倒れたとき、セラが用いた希少な花「陽輪草(ようりんそう)」の効力が及ばず、王の怒りを買ってしまう。

「おまえは偽りの癒し手だ」と罪を着せられ、セラは追放された。

絶望の中、彼女はかつて師から渡された古い魔導書を思い出した。その中には、“花と心を重ねることで真の癒しの力が目覚める”と記されていた。セラは山奥の谷へと身を隠し、花と語り合い、大地の鼓動に耳を澄ませながら、魔法と植物の力を結びつける修行を続けた。

季節は巡り、セラの周囲には人知れず花の楽園が広がった。

ある日、戦で焼け野原となった村の子どもがセラの谷に迷い込んできた。衰弱し、歩く力もないその子に、セラは一輪の陽輪草を手渡した。

「これは、日が昇る力を借りて咲く花。君の中にも、きっと光が宿ってる」

子どもが笑顔を取り戻すと、周囲の土から新たな花が一斉に芽吹いた。その瞬間、セラは気づいた。癒しとは与えるものではなく、心と心を結ぶこと。花の魔法は、自らの孤独を越えて、誰かの希望と繋がることで本当の力を放つのだと。

それから彼女は、夜明けとともに現れ、傷ついた土地にそっと花を植え、また静かに姿を消す存在となった。

目撃者は皆こう言う。「目を逸らせない瞳で、まっすぐにこちらを見つめていた」と。

その眼差しには後悔も悲しみも宿っていない。ただ、凛とした決意と、かすかなやさしさだけがある。

セラは今もどこかで、花とともに暁を歩いているのだろう。

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