Short Story

ものがたり ~静寂の魔女・リューリ~

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『静寂の魔女・リューリ』

遥か昔、霧に包まれた山奥に、ひとりの魔女が住んでいた。

名はリューリ。彼女は二本の杖を持ち、一本は「眠りの杖」、もう一本は「目覚めの杖」と呼ばれていた。リューリは言葉を発さずとも、人の心に語りかけることができる「沈黙の魔法」を使う。

ある日、王都の近くに巨大な黒い霧が現れ、人々は夢の中に囚われて目覚めなくなった。

国王はあらゆる魔導士を呼び寄せたが、誰も霧を晴らすことはできなかった。

そこで語り継がれていた伝説――“言葉を持たぬ魔女が、眠りと目覚めを司る”――に希望を託し、王は使者をリューリのもとへ送った。

リューリは言葉を発さず、ただ頷き、静かに王都へと向かった。

彼女が杖を掲げると、眠りの杖は静かに霧を吸い込み、目覚めの杖が輝くと同時に、人々はひとり、またひとりと目を覚ました。

しかし霧の中には、悪夢に囚われたままの少女が一人いた。少女はリューリのかつての妹――長い眠りについたままの、唯一リューリが言葉を失った理由だった。

リューリは最後に、目覚めの杖を空へ高く掲げた。そして彼女自身が霧に包まれ、妹と共に姿を消した。

それ以降、王都では眠りに落ちた人の夢に、ときおりリューリが現れるという。

彼女は何も語らず、ただ微笑み、二本の杖で優しく夢を撫でる。

そう、静寂の中で――。

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