Short Story

ものがたり ~黄昏に咲く魔女~

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金色の瞳が、静かにこちらを見つめていた。

ラティアは、忘れられた塔の上にひっそりと暮らしている魔女。人々は彼女を「黄昏の花魔女」と呼び、夕暮れになると森の奥からうっすら漂う香りに胸をときめかせたという。

彼女の髪は夜空を溶かしたような青紫。いつも無口で、声を聞いた者は少ない。だが、ラティアは花と語らい、風に問いかけ、星の光で編んだ魔法を操る。

ある日、村から一人の少年が訪れた。病気の妹を助けてほしいと懇願する瞳は、彼女の心の奥にかすかな揺らぎをもたらした。ラティアは黙って頷くと、一枚の紫の花弁を差し出した。

「この花を煎じて、三日月の下で飲ませて。」

それだけを言い、塔の中へと戻っていった。

数日後、妹の病が奇跡のように癒えたことを知った村人たちは、塔にお礼を言おうと集まった。しかし、そこにラティアの姿はなかった。彼女は、花のようにそっと姿を消していたのだ。

残されたのは、風にそよぐ紫の花と、やさしい魔力の気配だけだった。

――黄昏時、ふと空を見上げると、紫の髪がなびく幻を見たという人がいる。それは、きっと今もどこかで、誰かを静かに癒している魔女の面影なのだろう。

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